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第1研


      



初  恋


 梅雨の合間の久々の晴れだった。雲は白く、空の蒼は雨に流されたのか澄み切っていた。
 ヘルメットをかぶるとキーをONにする。セルを回すとエンジンが久々の晴れの走行に嬉しいかのような音を奏でた。
 ギアを入れ、アクセルをゆっくりと開けて走り出す。6月の爽やかな風が僕の身体を包み込む。
 今日のルートは決っていた。そう、あの人とよく走ったルートだ。

 先週あの人からハガキが来た。結婚したと書かれていた。ハガキの写真はあの頃と変らぬ素敵な笑顔のあの人だった。
 あの人は大学のゼミの1年先輩だった。
 初恋だった。キッカケは取るに足らないことであった。お互いにバイクが好きだったし、阪神タイガースのファンだっ
た。同じマンガが好きだった。そんな事だ。
 特に美人というわけではなく、スタイル抜群という訳でもなかった。普通で胸が無いのをよく嘆いていたのを思い出す。
 ただ、笑顔がとても素敵だった。何にもまして素敵な笑顔をする人だった。仲間同士でツーリングに行った時、一緒に
タイガースを応援し勝った時、マンガの話をして笑った時、そんな笑顔に僕は惹かれてしまった。

 大学を卒業してあの人は故郷に帰り中学の先生になった。1年後、僕は卒業し地元に残って図書館の司書になった。
 あの人とは時々手紙をやり取りした。タイガースの事、バイクの事、マンガの事、一緒に過ごしていた時間と変らぬま
まの話をこの5年間続けていた。
 そして今年の梅雨入りとともにそのハガキは来たのである。7年越しの失恋だった。

 そんな事を想いながら、あの人と走ったルートを、今日あの人との思い出と一緒に走っている。ショックは無かった。
 辛くは無かった。写真の中のあの人の笑顔がすべてを吹き飛ばしてくれた。ただ、思い出を深く胸に刻み込むように走り
つづけた。

 梅雨の合間の爽やかな晴れの日の事だった。





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