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第1研 00 02 03 04 05

1.再会


ふうっ、ここに姉さんがいるのか」
 とある一軒家の前にその少女は立っていた。
 少女は長い黒髪を後ろで束ね、清楚ではあるが凛々しい顔付きをしている。歳にはあわない着物風の服を着ており、腰には
なにやら短剣のようなものを差して
いた。
 一軒家を見つめるその瞳は輝いていたが、一瞬曇った。ふと不安がこみ上げてきたからだ。
『姉さんはドジだったからなぁ、ご主人殿からいじめられているのではないだろうか? 以前そんな話を誰かしてたなぁ』
 心の中にそんな声が響く。
「訪ねる前に、ちょっと様子を見てみるか」
 そう言い終えると同時にその姿が一瞬で消えた。

“ガシャン!”
 台所で皿の割れる大きな音が響きわたる。
「ひぁぁぁ〜 またやってしまいましたぁ〜〜」
 割れた皿のそばで女の子がこれまた大きな声で叫んだ。すると男がそばに駆け寄り、
「綾、また割ったのか? 今日はこれで5枚目だぞ。ホントにお前は〜」
と言いながら割れた皿をかたずけ始めた。 
「大丈夫か? ケガはしてないか?」
 男がそう心配げに綾と呼ばれたその女の子の顔を見ると、瞳一杯に涙を貯めていた。
「どうした? どこか切ったのか?」
 しかし綾はその問いに答えず
「ひぇぇぇぇ! 綾を見捨てないでえーーっ! 里帰りはいやあーのお!」
と叫びながら、いきなり男に飛びついた。
「げほっ! あ…綾…みぞおちに…」
 みぞおちにタックルされ、もがく男に関係なく
「綾を捨てないでください、ご主人さまーーっ!」
と綾は泣きすがった。

『相変わらず、綾姉ぇはドジだなぁ』
 その様子を天井裏から見つめる目があった。先ほど家の前に立っていた少女である。
『やはりご主人殿からいじめられているのだろうか。助けにいこうかな』
 そう決心し、ため息をついてから再び下を覗いた時である。思いがけない光景に目を奪われた。
「あ…綾、また早トチリをして… 以前にも言ったろ、はじめがどうあれ、今はオレには綾しかいないんだから。里に帰れなんて言
うものか」
 そう言いながら、男はタックルを受けた影響か、むせながらも綾を抱きしめた。
 抱きしめられた綾は、先ほどまでの悲しみの涙から、嬉しさの涙へと変り、
「ご主人さま〜」
と甘える。
「ホラまた『ご主人さま』と言う。名前で呼ぶって約束したろ」
「はい、と…俊…さん」
 照れまくりながらも綾がそう言うと
「ん、それでよし」
と俊と呼ばれた男はニッコリと笑い、二人はキスを交わしたのであった。

『ひやぁっ! な、なんだ!』
 天井裏の少女は予想もしなかった光景に驚き、思わず立ち上がり、梁に頭をぶつけてしまう。
“ゴン!”
「あたっ!!」
 そしてそのままバランスを崩し、
“バキッ!”
という音と共に天井板を突き破り、二人の前に
“ドスッ!”
と落ちてしまった。
「ひゃあああ!」
「うわっ! な、なんだ!」
 突然天井から降ってきた少女に二人は驚いた。
 少女は頭とお尻を擦りながら
「いったぁ〜い! 打っちゃったぁ〜」
と涙声で呟いたが、やがて二人の視線に気が付くと
「きゃっ! す…すみません、おじゃまします」
と顔を真っ赤にしながら飛び上がり、あわてて正座し直した。

「き、君はいったい? ま、まさか…」
 俊は少女の服装にいやな予感がした。いつか見た服装だったからである。そしてその予感は当たる。綾が少女を見て嬉しそ
うに叫んだからだ。
「あ、真夜ちゃん? 真夜ちゃんじゃないの?」
 綾からそう聞かれて、真夜と呼ばれた少女は、頭とお尻を擦りながら
「綾姉ぇ、ひ、久し振り」
とバツが悪そうに照れながら答えた。
「真夜?」
 俊がそう聞き返すと、綾は真夜の隣に行き俊の方を向くと
「はい、私の妹です!」
とおもいっきりの笑顔で答えた。
「妹って? あれ? 綾って一人娘だと以前言ってなかったっけ?」
「ひぁ、そうですよ。真夜ちゃんは本当の妹じゃないですけど、私の妹なんです」
「?… あの〜もう少し解るように説明してくれないか?」
「はいっ。え〜っと、真夜ちゃんは、私の従姉妹で、幼馴染で、妹弟子で――」
「いや、だから順を追ってきちんと整理して…」
「ほえっ? 解りませんか?」
「はあっ、もういい、相変わらずだな…綾らしいや」
「ご主人さま、綾の事誉めてくれたのですか?」
「…はいはい…」
「やった〜! ご主人さまが誉めてくれました〜!」
 俊は綾の喜ぶ姿を見つめながらため息をつくと、今度は真夜に向って話しかけた。
「ええっと、真夜ちゃんと言ったね。君はいったい?」
「あ、はい、どうもこんにちは。真夜と申します」
 真夜はまだ動揺しているようだった。二人の様子を見て俊はまたため息をついた。
『だめだなこりゃ…』

「おい、綾。落ち着け。とにかく、お茶を入れるから」
 喜びまわる綾に俊はそう言い聞かせて、割れた皿をゴミ箱に入れると
「綾、真夜ちゃんを案内してあげてくれ」
と綾に自分達の部屋に案内するよう指示をした。
「わかりました〜ご主人…いや、俊さん。さ、真夜ちゃん行きましょ」
「あ、うん」
 綾は真夜の手を引き2階の俊の部屋へと連れて行った。
 そんな二人の背中を見ながら
『なんだか綾、とても嬉しそうだったなあ。あんな綾の顔見るのは初めてだ。
 それにしてもあの真夜という娘、あの格好からして、やはり綾と一緒……なんだろうな』
とお茶を入れながら俊は考えた。

「ほい、お茶が入ったよ。ケーキは綾の手づくりだ」
 二階の部屋に上がった俊は、綾と真夜の前に紅茶とケーキを置くと二人の前に腰をおろした。
「すみません」
「俊さん、ありがとうございます」
 二人はそう返事をし、仲良く紅茶を飲む。
 しばらくして真夜が落ち着いて来たのを感じた俊が真夜に尋ねた。
「さて真夜ちゃん、ひとつ聞くけど君も」
「はい、くの一です」
「やはり…」
 真夜の答えに俊は苦笑するしかなかった。綾と真夜は『くの一』、つまり女忍者なのである。

 俊の家では祖先が助けた忍者一族から代々当主に忍が1名使える事となっているらしいのである。俊は綾が来た時に初め
てその事を知った。父親にも忍が仕え
ていたのだが、当主が結婚するとその任が解かれるため、俊は知らなかったのである。祖父は戦争中、何度もその忍によって
命を救われていたらしいという事を、
綾が来た後に父親から聞いた。そして今、自分には綾が仕えているという事になる。
 綾が来た時、最初俊は困惑した。忍の家来といってもこの現代には必要の無かった事だし、身の回りの世話を任せたとして
も、綾はまるっきし家事が駄目で、唯
一得意なのは何故かケーキ作りという娘だったからである。
 しかしそんな「落ちこぼれくの一」の綾ではあるが、今では俊にとって無くてはならない存在となっていた。それは綾にとっても
同じである。相思相愛の二人は「主
人」と「家来」というより、「しっかり者の彼」と「ドジでのんびり屋の彼女」という、ハタからみればドタバタカップルとなっていた。し
かも俊の両親公認でもある。

「真夜ちゃんは凄いんですよ〜。里のくの一の中でも5本の指にはいるんです。料理なんかも上手なんですよ」
 綾は自分の事のように自慢をした。
「いや、そんな私なんて」
 慌てて否定する真夜であったが、
「へぇ〜凄いんだねぇ」
と俊に言われると顔を真っ赤にして照れた。
「私なんかより、綾姉ぇの方が凄いよ」
「え? 私なんてドジだし、落ちこぼれだし、ぜんぜん凄くなんかないよ」
「いや、やっぱり凄いよ。綾姉ぇは私の憧れだもの」
「へぇっ? 私が?」
「だって、綾姉ぇの優しさは誰にも無い優しさだもの。すべてを包みこんでくれるような、大きな優しさを持っているから」
「え? そうなの? そんなぁ〜」
「うふふふふふ。そのポワっとした所も大好き!」
「えへっ、ありがとっ。うふふふふふふふ」
 仲の良い二人の会話を楽しそうに眺めていた俊が思わず呟く。
「なんかこういのいいなぁ」

「ほえ? 俊さんなんですか?」
 綾から聞き返されてあわてて俊は話を逸らした。
「あ、いや… そ、それより真夜ちゃん? 綾と真夜ちゃんとはどういう関係?」
「綾姉ぇと私は従姉妹で幼馴染なんです。ちいさな頃からいつも一緒で、遊ぶのも、修行をするのも、忍術の師匠も一緒で、と
ても仲の良い姉と妹でした」
 綾が補足を加える。
「もう一人幼馴染がいて、あ、静ちゃんって言うんですけど、静ちゃん、私、真夜ちゃんといつも三人一緒、大の仲良しなんで
す。
 静ちゃんは私の一つ年上で、里でナンバーワンのくの一で私の憧れだったんです。真夜ちゃんは頑張り屋のとっても可愛い
妹。そんな二人に比べて私はドジでい
つも落ちこぼれでした」
「そうかぁ、オレには兄弟がいないから、羨ましいよ。幼馴染はいるけどね、一人凶暴なヤツが」
「和美さんですね」
「そういう事、和美にはいつも泣かされてたからなぁ。ガキ大将だからアイツは」

 『和美』は俊の同級生である。格闘好きの性格からか俊はいつも技をかけられていた。実はそれは愛情の裏返しであり、一
時、綾と俊を巡って対立していたが、
俊の綾への気持ちに気付いてからは負けを認め身を引き、今では二人の良き理解者・友人となっている。

「でも和美さんって本当は優しい人ですよ、時々怖いけど」
「そうだな」
 俊と屈託のない優しい笑顔で話す綾を見て、真夜はほっと胸をなでおろす。
『大丈夫だな、綾姉ぇはご主人殿と上手く言ってるようだ』
 それまでの緊張から解かれた真夜はやっと心からの笑顔に戻った。

「さて、真夜ちゃん、君も僕の所に仕えに来たのかい?」
 俊はここに来た理由を尋ねて来た。
「いえ、私は綾姉さんに逢いに来ただけです。里から離れて一度も逢ってませんから」
「そうか、でもちょっと残念だな」
「え?」
「いやあ、家事が上手いって聞いたから。ほら、綾だとね」
 そう言うと俊はウインクをした。それを聞いた綾が
「どうせ、私はドジで落ちこぼれですぅ!」
と“ぷうっ”と頬を膨らませた。
「ま、それも含めて綾は綾なんだけどね」
 俊のその言葉に三人は顔を見合わせて心から笑ったのであった。





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