第1研 02 03 04

星 祭 り



「白竜、散歩に行かない?」
 突然夕食後、潤が白竜を誘った。
「ああ、別にいいけど。でもまたなんで…」
 の問いかけに潤は
「いいの、私が行きたいんだから。それに今日は星がとっても綺麗なんだから」
と少しむくれて、すねたような顔をしたが、
「わかった、わかった。じゃあ行こうか」
と白竜が答えると、無邪気な笑顔に戻った。
「こっそりと出ましょ。家の者に、特にお父様に見つかると五月蝿いから」
「はいはい」
「『はい』は1回!」
「はいはい」
「もう、意地悪! うふふふふふ」

  こうして二人は星空の散歩…いやデートに出かけた。まず先に白竜が館を抜け出した。続いて潤が抜け出す。館の外で待ち
合わせ二人は歩き
出した。
「どこに行こうか?」
「そうねえ、丘の上に行きましょ。あそこだったら星がよく見えるから」
「ああ、そうだな」
「じゃあレッツゴー!」
と潤は白竜の腕に抱きついて無邪気にはしゃいだ。
  そんな潤の様子を見て、ふっと恥ずかしげな笑みが白竜からこぼれる。

  丘の上に着くと、二人は草むらに腰をおろし夜空を見上げる。
 夜空には雲ひとつ無く、空という空間全部に星が広がっていた。天の川が空を横断し、星々が淡い光を煌めかしているその
圧倒する光景は、
悩みやモヤモヤをすべて溶かしてくれるようで、二人静かに穏やかな気持ちで見入っていた。その二人を穏やかな草原の風が
やさしく包む。
「ああ、気持ちいいなぁ」
と潤は呟くとバタンと草むらの上に寝転んだ。
「白竜、こうするともっと星が近くに感じられるわよ。まるで星空を泳いでるみたいに」
「そうか」
 潤の誘いに白竜も寝転んで空を見上げる。
「本当だ。凄いなぁ」
「うん」
 しばらくは二人並んで星空を見詰めていた。やがて白竜はそ〜っと視線を潤に向ける。星空見詰める潤の瞳にも満天の星々
が映って輝いてい
た。
「綺麗だ……」
 思わず白竜の口から言葉が漏れる。
「ん? なあに白竜?」
 白竜の呟きに潤がこちらを向いて聞き返して来た。
「あ、いや…」
漏れた言葉に一番驚き慌てたのは、白竜自身であった。急に長く忘れていた感覚が甦ってきたような感じになった。
死人である自分はドキドキするハズは無い、でもそれは記憶の中の感覚であった。苦しく、切なく、そして暖かい感覚、大切な
感覚。“純粋な恋”
という名の感覚である。

「なあに白竜?」
 再び潤が聞き返して来た。
「いや、なんでもない」
そう答えると再び星空を見上げて呟いた。
「やっぱり綺麗だなぁ」





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