第1研 01 03 04



「あ、流れ星!」
 澄んだ空に一筋の光の矢が流れる。
「また、出ないかなぁ… 今度はお願いをしなきゃ」
 小さな声で潤が呟く。
「お願い?」
 白竜が不思議そうな顔をして尋ねると、
「うん、日本では流れ星にお願いをすると、そのお願いが叶うんだって言われてるの。
 ただ、消えるまでにそのお願いを3回心の中で唱えなくちゃいけないんだって」
とニッコリ笑って答えた。
「ふ〜んそうか、で潤は何をお願いするんだ?」
 そう聞かれて、潤は一瞬頬を紅くすると、静かに目を閉じ穏やかな顔をしてそっと答えた。
「それはね…ヒ・ミ・ツ」
「ん?」
 潤は目を開き視線を白竜の顔に移すと、
「だからね、唱えるのが成功するまで他の人に教えちゃ駄目なの。だから白竜にも秘密」
と人差し指を自分の唇に当ててニッコリ笑って答えた。
 白竜は少し残念そうな顔をしたが、
「そうか、わかった。俺ももう聞かない」
と言って再び星空を見上げた。その瞬間また一筋の光の矢が流れる。
「お、今流れたぞ」
 その言葉に潤は慌てて
「きゃっ! 本当?」
と流れ星を探したが、既に流れ去った後であった。
「よ〜し、今度は絶対見つけてお願いをするんだ!」
 潤は真剣な顔付きになって星空を見詰め直し、白竜がその顔をにこやかに見詰めた。
「フフフ、頑張れ」

 しばらくして再び一筋の光の矢が流れる。それを見つけた潤は
「あっ」
と小さな声を出して慌ててお願いを唱えたが、がっかりした顔になり、
「う〜ん、間に合わなかった〜」
と残念そうに呟くと、
「よし、今度こそは」
と再び星空を見詰めた。
 そして、煌く星を見詰めながらおもむろに
「白竜も一緒にお願いしてみない?」
と小さな声で囁いた。
「俺も?」
「うん、白竜は何かお願い事はないの?」
「俺か…」
 しばらく白竜は考えこんでいたが、やがてゆっくり星を見詰めて語りだした。
「俺には願い事は無い。でも夢はある」
「夢?」
 潤が不思議そうな顔をして白竜の顔を見ると、その瞳は星よりも遠くを眺めているようだった。
「ああ、夢だ」
「じゃあ、その夢を願えば?」
「いやそれはある意味叶わない夢なんだ。夢は夢のままでいいんだ。それに…」
「それに?」
 白竜は一度静かに目を閉じたあと再び目を開き、その視線を潤の瞳に向ける。
「それに願いはもう叶った」
「ふう〜ん。白竜の願いって、いったい何だったの?」
 きょとんとした顔で白竜に尋ねた潤であったが、白竜が何も答えずただじっと自分を見詰めているのに気が付くと、急に恥ず
かしくなり、耳まで真
っ赤にしながら慌てて星空へと視線をそらした。
「も…もう、いいわよ… わ…私が成功しても、私の願い教えてあげないから!」
「ああ、構わないよ」
 白竜はにこっと笑って再び星空を見上げた。沈黙が二人を包む。
「……………」
 やがて潤が静かに口を開く。
「じゃあ私がその夢が叶うよう願ってあげる…」
「ああ、ありがとう…」
 白竜が答えたのち、静寂が訪れ、二人の平穏な時が流ていく。





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