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第1研 01 02 04



「クシュン!」
 突然、潤がくしゃみをした。
「潤、寒くなったか?」
「うん、ちょっと」
「じゃあ、ちょっと待ってろ」
 そう言うと白竜は身体を起こし、おもむろに近くの枯草や潅木を集め、火をおこした。潤も身体を起こしてその様子を見詰め
る。
 焚火の前に二人並んで座ると、紅い炎はパチパチと音を立てて二人を照らした。
「暖かくなったか?」
「うん」
 やがて、潤は思い出したように、ポケットに手を入れた。
「あのね白竜、今日は貴方にあげたいものがあるの」
 そう言うと潤はポケットから小さな紙袋を取り出し、白竜の手のひらに乗せた。
「なんだい?」
「ええっと…」
 そこまで言うと、潤は急に頬を紅潮させうつむいた。
「あけてもいいかい?」
「ええ」
 紙袋をあけると中からバンダナが出てきた。バンダナには四隅に『青龍』『玄武』『白虎』『鳳凰』の四聖獣、中央には『白龍』、
そして『白龍』の下
に「多謝」(ありがとう)という文字が刺繍されていた。
 白竜はそのバンダナを焚火の灯りでじっと見詰めていたが、やがてにっこりと笑うと潤に
「ありがとう、大切にするよ」
と言ったあと
「でも、どうしてこれを?」
と訳を尋ねた。
 すると潤は照らされた炎の色なのか、紅い顔で
「だって、今日は旧暦の7月7日だから」
と少しはにかみながら答えた。
 7月7日、そう『七夕』である。日本では笹に願い事を書いた短冊を吊るすが、中国では『乞巧奠』(きっこうてん)と言い「織
姫」にあやかって裁縫
の上達を祈る風習もある。
「そうか、『乞巧奠』か」
「うん。それにねほら、日本では『七夕』って言って笹に願い事を書いて吊るすでしょ、ここではそんな事はしないから、代りに願
いを込めて刺繍をし
たの。だから…」
 白竜の頭に一針一針願いを込めながら一生懸命刺繍をする潤の姿が浮かんだ。
 白竜はくすっと笑い
「じゃあ、潤の願い事ってどんな願い?」
と尋ねると、潤は
「そ…それは、さっきも言ったでしょ。秘密だって」
と耳まで真っ赤にしながら焚火の方へ顔をそむけた。

 白竜は本当はわかっていた。潤の願いが『いつまでも一緒にいたい』という事だと。なぜなら自分も同じであったからだ。流れ
星の願い事を聞い
た時も今も。わかっていたからこそ、はっきりと潤の口から、その唇から発せられる声から聞きたかったのである。しかしそれを
強要はしたくなかっ
た。
 そしてゆっくりと潤の肩に手をまわし、そっと潤を引き寄せると耳元で
「ありがとう潤。本当は俺にも願い事はあるんだ、それは潤と一緒の願い事だよ」
と囁いた。
「白竜…」
 潤が小さな声で白竜の名を呼んで顔を向けると、その瞳には涙なのか潤んでいて、炎の紅い火が鮮やかに映り揺らめいてい
た。
 「ずっと、ずっと一緒にいるよ…」
 そう囁きながら白竜はゆっくりと潤の顔に自分の顔を寄せる。すると潤はゆっくりと瞳を閉じた。そして白竜は、その紅く照らさ
れた唇にキスをし
た。
 重ねた唇を一度離すと、潤が
「…ありがとう…」
とかすれるような声で呟き、自分から白竜の唇に自分の唇を重ねにいった。その閉じられた瞳から、涙がゆっくりと落ちてゆく。

 二人にとってそれしは永遠の時間(とき)に感じられた。しかし実際はほんの1〜2分である。永遠であろう時間は二人を呼ぶ
声で止まってしま
う。
「潤様〜、白竜〜」
 声の主は馬孫てあった。二人は慌てて離れると何事も無かったように星空見上げた。
「あ、潤様、白竜、こちらにいらしたんですか」
「お…おう、馬孫どうした…」
「いや、二人の姿が見えなかったので、ちょっと心配になって。それに道円様にその事が知れると大騒ぎになるだろ」
「あ…ああ、そうだな」
「二人で何を?」
 馬孫は当然理解していた。していたが敢えて二人をからかうように尋ねた。
「い…いやぁ、星を」
「そ…そうなの、星を」
「そうですか、星を見に」
 あきらかに二人は動揺し、しどろもどろになって答えたが、馬孫はそれ以上はつっこまなかった。
「そうか、今日は『乞巧奠』、星祭りの日ですものね。でもそろそろ戻られないと」
「そうよね」
「そうだな」
 二人はそそくさと立ち上がり、白竜は焚火の火を消すと
「じゃあ帰ろう」
と潤の手を取り歩き出した。
 二人仲良く手を取り歩く姿を、馬孫は後ろから暖かな眼で見守りついて行った。

 館へ戻ると、二人は誰にも見つからず無事部屋に入れた。
 潤は自分のベッドに座るとベッドの脇に置いてある花瓶を見詰め、やさしく微笑み
「願い事、叶ったかな?」
と呟いて静かに夢の中へと入っていった。
 ベッド脇の花瓶には、小さな笹が入っており、その枝に小さな短冊が下がっていた。
『ずうっと一緒にいられますように』
 短冊にはそう書かれてあった。




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