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第1研 01 03 04 05 06 07

2.“サエ”と“ヒビキ”


「さきのお母さんですか?」
「ハイ」
 守は客間に通した"サエ"と名乗る女性に、お茶を差し出しながら尋ねると、小柄なその女性は静かに答えた。
 『確かに顔は座敷童子だった時のさきそっくりだ…』
 そう思いながらじっとその女性の顔を見つめた。
「で、サエさん、そのぅ…今日はいったい?」
「さきに逢いに来ました。それと、ヒビキさんにも」
「ヒビキ? …ええっ! 母さんに?」
「はい、そうです」
 “ヒビキ”は守の母の名である。3年前に守の父が死んでからは、女手一つで渡家の生活を支えていた。
 『なんでこの人…サエさんは母さんの名前を知っているんだ? さきに逢いに来たのは解るけど、なんでオレの母さんに?
  でも、ちょっと待て。「さき」ってのはオレがつけた名前だよな。…確か座敷童子には名前なんて無いってさきは言ってたよ
な。だったらなんでサ
エさんはオレがつけた名前を知ってるんだ?』
 守は急に頭が混乱し、頭を抱えてしまった。そんな守の様子をニコニコしながら見つめていたサエが、お茶を一口すすると、今
守が頭の中で叫ん
だ事を、聞いていたように答え始めた。
「ウフフフ、そんなに悩まなくても大丈夫ですよ。確かにわたくし達には普通名前がありません。ただ、名前を持つ事ができる座
敷童子もいるんで
す」
 サエの語った座敷童子の世界は次のようなものだった。


 座敷童子はその妖力により、「神級」「S級」「A級」「B級」そして「eB級」にランク分けされている。
「B級」は座敷童子の大多数を占めており、いわば一般人という事になるが、すべての座敷童子は生れたらこの「B級」からス
タートする。その後の
修行や人間界での「幸せ」の達成度と昇級試験により「A級」「S級」へとランクが上がっていくのである。「A級」は「B級」の1
0%、「S級」は「A級」
の1%の割合で構成され、さらに「神級」は座敷童子の族長とその妻の2人のみで、100年に1回の儀式によって全クラスより
選ばれる。
「eB級」とは「B級」にランクされる座敷童子のうち、巨大な妖力を持っているか、まったく妖力が測定されない者を指す。修行に
より妖力をコントロ
ール出来たり引き出せるようになると「B級」となるが、普段は「B級」として生活するのである。
 平均寿命は500年だが、人間と関係を持つと妖力を失うため、人間と同じ時間の流れとなり、寿命も人間並となる。
 名前を持つ事ができるのは「A級」以上に限られるが、「B級」でも結婚すれば名前を持つ事ができる。ちなみに男女の比率
は1:9であるため、結
婚により名前を持っている者は非常に少ない。そして特例として、人間より名前を与えられたら、名前を持つ事ができるのであ
る。


「わたくし達は仲間同士『思念』で結ばれています。『思念』とは人間の言葉で言う『テレパシー』みたいな物でしょうか。その『思
念』によって守さん
が、さきに名前を与えてくださった事を知りました。
 わたくし達にとって名前があるということは、非常に名誉な事なのです。本当にありがとうございました」
 そう言ってサエは深々と頭を下げた。
「えっ? …いやぁ…あのぅ…そのぅ…」
 守はサエが『思念』で自分の考えていた事を感じ取った事と、思いもしなかった感謝の言葉に急に恥ずかしくなって、しどろも
どろの返事しか出来
なかった。


 その時である、玄関の方から聞き慣れた声がした。
「たっだいまぁ〜。おや? お客さん?」
 母、ヒビキの声であった。ヒビキが客間をヒョイと覗き込んだ途端、とんでもない大声で、そして嬉しそうに叫んだ。
「あっらー! サエちゃんじゃないか! いつ来たサ!?」
「ヒビキちゃ〜ん! ひっさし振りぃ〜! さっき着いたばかりなのよ! 何年振りかしら、直接逢うのは?」
「3年振りかな? 旦那の葬式以来だから」
 驚いたのは守であった。二人がまるで幼馴染みのように、大声ではしゃぎながら抱き合ったからである。
「あ…あのう…二人はお知り合いで…?」
 圧倒された守が恐る恐る尋ねると、
「25年来のおっ友達ぃ〜!!」
とヒビキがVサインをしながら無邪気な笑顔で答えた。
「そうなのよ〜。ヒビキちゃんとは、25年前にわたくし達一族を助けてもらってからのお友達なんです」
 サエも先程までの落ち着いた雰囲気から一転、まるで子どものようにはしゃいで答えた。


「助けた? いったいどういう事なんですか?」
 するとヒビキは急に落ち着いた顔をして座り込むと、
「そうか、今日はあんたの20歳の誕生日だったね… 守、さきちゃんを連れておいで」
と守が思いもしなかった名前を出した。
「え? …なんで母さんが?」
「うん、知ってるサ。なんたってサエちゃんの娘だもん」
「で…でも…」
「ちゃ〜んと知っているサ、ねえサエちゃん」
「ええ。そもそもさきちゃんをこの家に連れてくと言ったのもヒビキちゃんだし、普段は『思念』で連絡取り合っているもんね」
「えっえ! じ…じゃあ、母さんはさきが見えてたんだ!?」
「ウン。父さんも見えてはいなかったけど、知っていたサ」
 驚愕の事実を知らされ、守はぽかんと口をあけたままで、しばらくはその場から動く事ができなかった。


「あ、あのう〜、お母ちゃん?」
 守はその声にハッと我に帰ると声がした方を確かめた。そこにいたのは泣き疲れて守のベッドで寝ていたはずのさきであっ
た。先程以来の大騒
ぎで目が覚め、様子を覗きに来たのだった。
 『いかん! 今のさきはサエさんや母さんの知っているさきじゃない! どうしよう…』
 そんな守の心配をよそに、サエは当たり前の様にさきに話しかけた。
「あら〜さきちゃん、随分と可愛くなったね〜」
「え? サエさん、さきだと解るんですか?」
「そりゃ娘ですもん、当然でしょ」
「で…でも…」
「守、落ち着きな。今から説明するサ。さ、さきちゃんもおいで」
 ヒビキは手招きでさきを呼ぶと、守の横に座らせた。





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