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第1研 01 02 03 04 06 07

5.再逢の夜


“それ! シュート! やったあゴールだぁ!”
 子供達がサッカーをしている川原の土手にその女の子はいた。ワンピースを着たその女の子は、歳は16〜17歳位だろう
か、長髪でやや幼さの
残る顔立ちをしていた。
 夕日で赤く染まる川面を女の子は眺めながら
「あれから1週間かぁ、今日帰ってくるんだ」
とつぶやき、ポケットからネックレスを取り出した。
 ネックレスにはオレンジ色の宝石がついており、女の子はそれを大事そうに見つめ、少し怒ったような口調で、だが笑顔で宝
石に向かってつぶや
く。
「でもちょっと遅いんじゃない? もう夕方だよ」


“ピッピーッ! ゲームセット! 2対1で……”
 サッカー終了の笛の音とともに女の子は立ち上がり、ワンピースについた草をはたき落としながら、
「さて、帰ろっかな」
と土手の階段を登り、上の散策道を夕日に向かって歩き出す。歩いてゆく方向には赤い夕日が沈んでゆく。ふと女の子はその
夕日の中に男性の
影を感じた。
「…?」
 近づくにつれ、だんだんとその影がはっきりとしてゆく。すると女の子は嬉しそうに影に向かって急に走り出していき、
「お帰りなさ〜〜〜い!」
そう叫ぶと男性に飛びついた。男性は女の子の顔をみるとちょっと驚いたが、その娘が知っている娘だと気づくと顔が緩む。
「もう! “守”さん遅っそーい!」
「あはははは、ごめん、ごめん。母さんが向こうでお土産やらなんやら買いまくってたから、予定を大幅にオーバーしちゃってさ。
ごめんな、“さき”」
 男はガァーディアンハ−ツ本部へ行っていた『守』、女の子は座敷童子の里に帰っていた『さき』である。
「それより、さき、その言葉は? 関西弁はどうした?」
 確かに以前のさきは、バリバリの関西弁であった。しかし今目の前にいるさきは守と同じ言葉を使っていた。
「えへへへへっ、それはヒ・ミ・ツ。家に帰ったらわかるわよ」
と、さきは愛くるしく微笑んで答えながら、守の手を取ると“ぎゅっ”と握り締め、
「さぁ守さん、家に帰りましょっ!」
と、手を引っ張りながら、小走りに駆け出した。
「おいおい、さき、ちょっと待ってくれ」
 文句をいいながらも、守がそっとさきの顔を盗み見ると、さきの明るい瞳に夕日の炎が映り込んで、きらきら輝いているのが見
えた。ふっと恥ずか
しげな笑みが守からこぼれた。
「こういうのも、何かいいかも…」
「え? なあに? 守さん」
「あ、いや、な…なんでもありません」
「そう? ウフフフ」


 二人が家に戻ると客間ではヒビキとサエが、ヒビキの持って帰った“光の国土産”で談笑していた。
「おや、二人とも帰って来たネ」
「お帰りなさい」
「ただいま」
 守とさきは声を揃えて答えた。
「ヒビキさん遅かったですね」
「いっや〜 ごめんね、さきちゃん。ちょおっと買い物に熱中しちゃってて、ゴメン。愛しい守に1秒でも早く逢いたかっただろう
に」
 冷やかされたさきは顔を紅潮させながら
「もう、ヒビキさんったら……」
と少しはにかみながらテレまくる。
 ヒビキと談笑するさきを眺めていた守にサエが
「守さん、1週間振りに逢ったさきはどうですか? 美人になったと思わない?」
とささやいた。
「な…何言ってんですか!?  サエさん!!」
 顔を紅潮しながら、守は慌てたが、改めてさきを見て思った。
 『確かに…』
 ほんの1週間ではあるが、雰囲気が変っていたのである。
 『ちょっと、大人の雰囲気が出たかな?』
 守の視線に気づいたさきが、守の方を見てニコッとすると、守はドキッとして慌てて視線をそらし、慌てた自分を取り繕うように
サエに尋ねる。
「あ…あのう、サエさん、さきの言葉のコトなんですけど」
「うふっ、それは本当に人間になれたという事です」
 サエはにこやかに微笑むと、おもむろにさきの側へ行き、その手を取り、
「さき、こっちへいらっしゃい」
と、守の横に引っ張って来た。


「では、儀式の結果についてお話しましょうか」
 ヒビキとサエが揃って座り、反対側に守とさきを座らせた。
「完全に純粋な人間になるためのさきの儀式は無事成功いたしました。守さんの“純粋な光の心”のおかげで“負の力”を完全
に消滅する事が出
来、さらに微弱ではありますが、“光の力”を感じることが出来ました。その“光の力”の影響でさきは完全に人間になった時、わ
ずかな成長が現れ
た上、ある種の能力とでも言うのでしょうか、そんな力がついたのです。さき、宝玉を出して」
 サエに言われてさきは、ポケットからオレンジ色の宝玉がついていてるネックレスを取り出す。
「この宝玉にその能力が秘められています。儀式の途中でさきの心より産まれ出たモノです。まあ、もう一つのさきの魂とでも
言いましょうか、さき
の魂に反応して、その能力が発揮されるのです。この宝玉を通して、わたくしたちと『思念』で話す事も出来るのです」
 ヒビキが続く
「その宝玉には“光の力”も宿っている。ガァーツのクリスタルとも思念で会話することができる。さきちゃん、
少し集中してみて」
「はい」
 ヒビキに言われてさきは、宝玉を手に乗せると目を閉じて集中し始めた。やがて手の中の宝玉から淡いオレンジ色の光がほ
のかに輝いてきた。
「守、その光にちょっと手をかざしてごらん」
 守はそうっとオレンジ色の光に手をかざしてみる。ぽわっとした暖かな、そして柔らかな感じが伝わって来た。
「この光がさきに宿っている魂の輝きです。守さんから頂いた“光の力”、そしてさきの守さんを想う魂からの力が込められてい
ます」
「まあ、さきちゃんの守への“愛の力”ってトコかな」
 ヒビキにそういわれてさきが頬を紅潮させると、宝玉の光も輝きを増した。
「それともう一つ、守さんへの“信頼の力”でもあります。その“愛”と“信頼”の力が身体的だけではなく、さきの魂に大きな変化
を与えたのです」
「変化…」
「そしてその変化が最も現れたのが」
「言葉…という事ですか」
 守はサエから聞かされた“愛の力”と“信頼の力”という言葉に少し照れながらも、一番気になっていた事を尋ねた。
「はい、その通りです」


「今までの関西弁はあの娘の父親を想う魂から話していた言葉でした。あの娘の父親は関西出身のヒトでした…と言っても人
間からみれば妖怪で
すが…。25年前の里の危機の時には、わたくし達と一緒に戦ってくれましたが、大きな怪我を負ってしまったのです。その怪我
がもとで亡くなりま
した。さきはそんな父親をとても慕っており、関西弁を使うようになりました。
 しかし、今は守さん、あなたがさきにとって、さきの魂にとって一番大切な人であり、愛と信頼を得ている人です。だからさきは
あなたと同じ言葉を
使うようになりました。
そう、さきは生まれ変わりました。座敷童子のさきではなく、一人の人間そして一人の女性として。ですから今日から名前も“さ
き”ではなく“サキ”
という名前に変ります。
 どうかサキをこれからも宜しくお願いいたします」
 そうサエから言われて、守はさき、いやサキにとってかけがえのない存在である事に改めて気づかされる。
「判りました、サエさん。サキは僕が大切に護って行きます」
「ありがとうございます、守さん」
 そしてサキの方を向くと
「サキ、あなたは魂は守さんと共にあります。これからは守さんを想い、助け助けられ、そして共に支えあっていかなければなり
ません。良いです
ね」
「はいっ!」
 満面の笑みを浮かべたサキが部屋いっぱいの声で元気良く返事をした。


「さぁて、次は守の番だね」
 サキの明るい返事を聞き終えた後、ヒビキが話し始める。
「まずは、結果だね。まずはガァーツの力は無事制御する事ができた。“光の心”の力の大きさは正式なガァーツ員にはかなわ
ないけど、やはり
“純粋な心”の影響か、まったく独自の力だったよ。まあ、“守の光”ってヤツかな? でもとりあえず制御は2年間の有効期限
付きなんだ。2年後、
つまり和也が大学を卒業したら、本格的に力をコントロールする訓練を受けなくちゃいけないのサ。」
「2年後…」
「うん、その時はまた光の国に行かなくちゃいけないけど、サキちゃん構わないよね?」
「ハイ」
 サキは明るい笑顔で答えた。
「よし、わかった。2年後、守は光の国に行く、そして力をコントロールする。いいね」
「はい。で、訓練期間はどのくらいに?」
「そうだなぁ、1年位か。まぁ、サキちゃんとは1年間逢えないけど、その前に2年もあるんだから、二人の仲をシッカリとしたモノ
にしといときな。
二人の仲がシッカリとすれば、それだけ守もサキちゃんも力をシッカリとしたモノに出来るし、強くもできるって事サ。アハハハハ
ハハハハ」
 ヒビキは豪快に笑うと、サエと顔を見合わせ相槌を打つ。
「じゃ守、お前に見せたいものがあるから、自分の部屋に戻っとくサ」
「ではサキはわたくしと一緒にこちらへ」
「え? オレだけ?」
「野暮な事を言うんじゃないよ。いいから部屋に戻ったサ!」
「そうですよ」
 二人に圧倒され、守は渋々従うしかなかったった。
「はいはい、わかりました。戻ってますよ」
 そそくさと戻る守にヒビキが怒鳴る。
「“はい”は1回!!」
「はぁ〜い」
「このバカ息子!」
 そんなやり取りをサエとサキは笑いながら見ていた。


 部屋に戻った守は、ベットに横たわり背伸びをし、
「はあ、2年後かぁ… きっと長いようであっという間に来るんだろうなぁ」
とため息をつく。
「でも、サキ綺麗になったなぁ。あの日、そう初めての日からは想像つかないなぁ。あのオテンバ娘がなぁ。
 ハハハハ」
 緩んだ顔の和也が感慨にふけっていると、部屋のドアがノックされた。ヒビキであった。
「守、入るよ」
「あ、うん」
 あわてて顔のにやけを取り払い、ドアを開ける。
 ゆっくりとヒビキが入って来て、ベッドの前のイスに腰掛ける。
「守、もう一度確認するけど、あんたサキちゃんをこれからずっと護っていけるかい?」
 真剣な顔付きになって守るの眼をヒビキはじっと見つめた。
「ああ、決心したんだ。必ず」
 守も真剣な眼差しでヒビキに答えた。
「2年後訓練を受けに行って1年間は逢えない。訓練後はガァ−ツの使命を帯び、ガァーツとして活動しなくてはならない。その
ために命の危険に
身をさらす事になる。それはあんただけじゃなく、サキちゃんもそうなんだ。それでも護っていけるかい?」
「ああ、そのためにも訓練を受けると決めたんだから」
 しばらく守の瞳をじっと見つめていたヒビキであったが、やがて急に穏やかな顔付きになり、
「わかった! 本当に決心し覚悟を決めたみたいだね。わかったよ。あんたを、そしてサキちゃんを信じるサ!」
と嬉しそうに答えた。


「じゃあ、サエちゃんいいよ!」
 部屋の入口に向ってヒビキが叫ぶと、サエとそしてサキが手を引かれて入ってきた。
 守はサキの姿を見て驚いた。純白のウェディングドレスに包まれていたからである。サキは耳まで真っ赤にしながら、少しうつ
むき加減で守を見
た。
「ええっ、そ、そのドレスは何?」
「何って、サキちゃんのサ。あたしのお古だけどね」
「どうです? 可愛いでしょう」
「う…うん」
 守はサエに言われて改めてサキを見た、そして見とれてしまった。
「いや〜光の国に帰ったら、見つけてねえ、サキちゃん将来要るだろうから、試しに着てみてもらったのサ。どうだい、可っ愛い
だろー。ご感想は?」
「………」
 守は言葉が出なかった。また二人にしてやられたのだった。
 『この二人には敵わないな。いつも先手を打たれてしまうな…しかたないか』
 そう決心すると守はサキの横に立ち、サキと手を繋いでヒビキとサエに向って
「オレとサキは一緒に、夫婦になります。今すぐではありませんけど。
 オレがガァーツの訓練を終えてここに帰ってきたら結婚します。よろしくお願いします!」
「やっぱり」
「やっぱりでしたね」
 照れまくって真っ赤になっている守とサキを尻目に、ヒビキとサエは大声で笑い転げていた。





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