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第1研 01 02 03 05 06 07

4.守の気持ち、さきの想い


「さて、ここからが本題だよ。二人ともよくお聞き」
 ヒビキはそう言うと再びお茶を口にした。
「さっきも言ったように、守は“光の心”を無意識に、そして訓練無しに一気に発揮した。実はこれはとても危険な事なのサ。
 訓練をしていないから、力を制御する事が出来ない。自分の感情に任せて力を暴発してしまう恐れがあるんだ。暴発した力は
この地球全体を包
み込む程の大きな力なんだ。
 前にも言ったように、暴発した“光の心”は“負の力”にも影響を与えてしまい、人の心を“闇の心”に変えてしまう恐れがある。
“闇の心”に支配さ
れてしまった人間の魂、いや“闇の心”に覆われた地球上の全生物は互いに血を求めてしまう、どういう事か解るかい?」
 守は息を呑んだ。ヒビキの言った意味を一瞬で理解したからである。
「地球の滅亡……」
「そう、その通りサ。他の星系でそういった実例があるのサ。しかも暴発させたガァーツは生命力を失い続け、一生意識が戻ら
ないか、最悪、暴発
した瞬間に一瞬にして蒸発してしまうのサ。
 “光の心”は本来、光の国の女性に強く宿っている力で、光の国の男性は弱い力しかない。ガァーツのほとんどは女性なん
だ。守、お前は父さん
の“地球人の純粋な心”のおかげでその力を得られた。しかし、それは暴発する危険性が普通のガァーツより何倍も高いって
事を意味しているんだ
よ。
 だから、あんたは力をコントロールする訓練をしなければならない。そのためにはガァーディアンハーツ本部に行かなきゃなら
ないんだ。ま、最初
は力の測定と暴発しないよう制御調整を受けるだけだから、1週間位で帰ってこられるかな」
「で…でも…オレ、急にそんな事言われても…」
 守は恐怖と不安で押しつぶされそうになりながら答えた。
「うん、じっくり考えな。幸いな事に今は“地球人の純粋な心”のおかげで均衡なバランスを取っていられる。でも確実にバラン
スが崩れる時が来る
んだ。受けなければガァーツの危険人物リストに載り逮捕されてしまう。その時、だれが一番悲しむのか、よう〜く考えるんだ
ね」
 ヒビキに言われて守はハッとしてさきの顔を見た。さきも不安に怯えた顔で守を見つめる。
「二人でじっくり話し合って結論を出しとくれ。明日の朝、答えを貰うからサ」
 ヒビキはそう言うと立ち上がり、
「さぁ! 今夜は飲むよ〜! 守の20歳の誕生日と、さきちゃんの人間になったお祝い、そして旧友との再会のお祝いサーーー
ー!」
と飛び跳ねるようにして台所へ向かった。


 客間に残された守とさきは、互いに手を取り合ったまま黙ってうつむいていた。
 サエはそんな二人を暖かい目で見つめながら申し訳け無さそうに語りかけた。
「さき、守さん、もう一つお話があります。実は明日、さきを里に連れて帰らなければなりません」
「えっ?」
「なんで?」
「さきは人間になりました。妖力はほとんど残っていませんが、“負の力”だけはある程度残ってしまうのです。その“負の力”を
排除し、純粋な人
間の心にする儀式をしなければなりません。そして、その心に守さんから頂いた“純粋な光の心”を融け込ませようと思っていま
す。儀式を受けな
ければさき、あなたを里に閉じ込めなければなりません。大丈夫、4日間で済みます。
 守さん、どうかさきを連れて帰る事をお許しください。
 さき、この儀式はあなたにとっても、守さんにとっても、とても大切な儀式なのです。わかって頂戴ね」
 サエは二人の手の上から自分の手を重ね、深々と頭を下げた。
「…………」
 守とさきは只、黙っているしかなかった。
 サエはやがて頭を上げると
「ヒっビキちゃ〜ん、お手伝いするわよ〜」
とヒビキの後を追うように台所へ飛び跳ねていった。


「守はん」
「さき」
「ウチどないしたらええんやろ、お母ちゃんの言う通り儀式を受けた方がええんやろか?」
 不安げな顔で守を見る。
「でも、儀式を受けんと守はんの側におれんようになる、そんなのいやや! ウチは守はんの側にずうっとおりたい、離れとうな
い!
 ずうっと、ずうっと、一緒にいたい!
 だって…だって… ウチ、守はんの事、大好きなんやもん! 愛してるんやもん!」
 そう言うと、さきは守の胸の中で泣き崩れた。さきのそんな姿を見ていると、守の心の中のモヤモヤが晴れてきたような感じ
がした。
 『なんだ、恐れる事迷う事なかったな。オレはこの娘を護るって決めたんだろ! 答えは出ているじゃないか』
 そう決心すると守は泣きじゃくるさきの顔を引き寄せ額にキスをした。
「さき、ありがとう。オレも決心したよ。ガァーツの本部へ行ってくる、そして訓練を受けるよ。なによりもさきのためにね。だからさ
きも儀式を受けて
来い、そして二人でまた暮らそう。
 大好きだ、愛しているよ、さき」
 二人は再び熱く、深くキスを交わした。二人にとって互いの想いを素直に、そして初めて確かに交わした時であった。
 そんな二人の様子を物陰から見ていたヒビキとサエは静かに微笑み、堅く握手を交わした。


 守とさきの想いを通じ合わせた長い時の後、いきなり静寂は破られる。
「準備できたサ! さぁ飲もう!」
 ヒビキであった。守は呆れ顔で、
「まだ昼間だぞ! オレとさきはまだ朝食も摂っていないんだぞ!」
と答えたが、サエまでも
「いいんですよ。今日は特別な日。お二人の想いが確かになった日ですから。さぁ飲みましょう!」
と冷やかし半分で明るく二人を誘った。
「そういうコト!」
 今度はヒビキがからかう。
「じゃ…今の見てたなー!」
「もう、お母ちゃん!何見てんねん!」
 守とさきはキスを見られていた事を知ると、二人して真っ赤な顔をして怒ったが、ヒビキとサエは
「ラブラブ−!」
とはしゃぎながら、手を繋いで台所へ逃げて行った。
「まったく、似た者同士だな、あの二人。しかたない付き合うか!」
「ウフフフフフ…はい!」
 その日は昼間から夜更けまで大宴会となってしまったのである。


 大狂乱の宴会から一夜明けた朝、目を覚ました守とさきは互いに顔を見つめながらベッドから起きた。昨日の朝からの大騒
動と大混乱がまるで
遠い過去の記憶のように思える程、すがすがしい朝だった。
 二人で食卓へ向かうと、そこには既に朝食の用意がしてあり、ヒビキとサエが待っていた。
「母さん、サエさん、おはようございます」
 守は挨拶をし、さきと一緒にペコリと頭を下げ、イスに座った。
「ああ、おはよう」
「おはようございます」
 ヒビキとサエはそれぞれ答えると、ご飯と味噌汁をついで二人の前に置いた。
「さぁ、朝ご飯にしよう」
「いただきます」
 昨日とはうって変って、平穏な朝であった。


 朝食が済むと守とさきは互いに手を繋ぎ、ヒビキとサエに向かって改めて座りなおした。
「母さん、オレ検査と訓練を受けるよ」
「そうかい」
「お母ちゃん、ウチ儀式を受けるわ」
「そうですか」
 二人の返答をヒビキとサエはにこやかな顔で受け取った。
「二人で充分話し合ったサ」
「はい」
 守とさきは声を揃えて答えた。
「では、守は1週間の検査を」
「さきは4日間の儀式を」
「それぞれ受ける事が決った。出発は今日の正午、それまで二人で過ごしておいで」
「はい」


 守の部屋に戻った二人は暫くベッドに揃って腰掛けていた。おもむろに守は立ち上がると
「さき、ちょっと散歩に行こうか」
とさきを誘った。
「うん」
 さきは小さく頷くと守の後についてゆく。


 家の近くの川原の土手に二人は座り、朝日に輝く川面を静かに眺めていた。急にさきが話し出す。
「守はん、一晩考えたんやけどな、ウチ儀式が終わって、ココに帰ってきたらやりたい事があるんや」
「なんだい?」
「ウチ、学校へ…高校へ行ってみたいんや。里では人間の中学程度の学力と知識を付けてから人間界へ来るんやけど、これ
から守はんと暮らして
行くためにも、もっともっと人間の事、世の中の事が知りたいんや。いかんか?」
 守はニコっと微笑むと
「うん、そうだね。素晴らしい事だよ」
と答えた。さきはその答えを嬉しそうに聞き遂げたあと、
「んで、んで、ウチが高校を卒業して、守はんの訓練が終わったら… ええっと…ええっと…ウチと…」
とそこまで話すと、耳まで真っ赤にしながら、急にどぎまぎした顔つきになって口ごもってしまった。
「なんだい? オレと?」
 さきは顔を真っ赤にしたまま暫く黙っていたが、意を決したように守に
「ウチと! ウチと夫婦(めおと)になって欲しいんや!」
と大告白をした。


「えっ!?」
 さきの迫力に最初は驚いた守だったが、やがて優しい顔になると、さきの頬に軽くキスをし、
「うん、いいよ、結婚しよう」
と優しげな微笑で頷いた。
 するとさきは頬を紅潮させながらも、守の返答に戸惑ったのか、急にもじもじしだした。
「え、ほんま? で…でもウチ、元妖怪やし、悪い事もやった。そんな娘やのに」
「何を言ってるんだい、一緒になりたいんだろ? オレも同じ気持ちさ。さき以外に考えられないよ。今まで過ごして来たように、
これからもずっと一
緒だよ。
悪い事をやったのはオレも同罪だよ。あのA級座敷童子の娘『もみじ』ちゃんって言ったっけ、母さん達が言ってたように、今は
幸せな暮らしをし
ているんだろ、そういう運命の歯車だったんだよ。それに罪を感じるのなら、これから“光の心”で罪を償って行けばいいじゃな
いか。『もみじ』ちゃん
も謝られるより、きっとその方が嬉し
いと思うよ」
「うん、ありがとう守はん」
 さきの瞳が涙で溢れた。守は壊れ物を包むようにさきをそっと抱きしめ、さきの涙で濡れた唇にキスをした。
 朝の穏やかな優しい日差しが、爽やかな川原の風と共に二人を包み込んでいた。


 その日の正午、二人の出発の時刻がやってきた。
 客間に守とヒビキ、さきとサエが並んで立っている。
「じゃあ始めるよ」
 そう言うとヒビキはガァーツに変身し、クリスタルに呪文を唱えだした。サエも同様に座敷童子本来の和服姿に戻ると、印を結
んで呪文を唱えだし
た。
 やがてヒビキと守の前に薄い青緑の光が、サエとさきの前にオレンジ色の光が現われ、その光が楕円形のゲートを型創って
ゆく。


「じゃサエちゃん、さきちゃん行ってくるサ。さきちゃん、頑張ってね」
「ではヒビキちゃん、わたくしもさきを連れて行ってきます。守さんをよろしくね」
「さき、行ってくるよ。1週間後にまた」
「うん、守はん、あんじょうやりぃな、ウチ先に帰って待っとるで」
2組の親子はそれぞれの光の中へと姿を消した。そして家の中には、静寂だけが残った。





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