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3.ヒビキと守の秘密、さきの理由


 守とさき、対面してヒビキとサエが位置し、ヒビキの話しが始まった。
「まず、今日は守の20歳の誕生日だから、守、よくお聞き。今からお前にとってとても重要な事を話すよ。まずはっと…」
 そう言ってヒビキは自分の首にかけているネックレスを取り出した。シルバーのチェーンに、直径1cmの薄い青翠のクリスタル
球が付いている。
とても神秘的な青翠だった。
 ヒビキはそのクリスタルに向かって何か小声で呟くと軽くキスをした。その途端、ほのかな光が輝き出し、クリスタルが徐々に
大きくなって行き直
径5p位になった。守とさきは、その光景を唖然として眺めていた。
「このクリスタルはね、“ガァーツ”の魂なのサ」
「“ガァーツ”?」
「うん、正式には“ガァーディアンハ−ツ”って言うのサ。まぁ、地球式に簡単に言えば“ギャラクシー・ポリス”って事かな?」
「ギャラクシー・ポリスぅ? つまり“宇宙の警察”って事? …そんなマンガじゃあるまいし…」
「ま、急にこんな事を聞かされて、信じろって方が無理だけれどサ。まぁ、見ててごらん」
 そう言うとヒビキは目を閉じ、クリスタルを胸に当て静かに何かをつぶやいた。その途端、ヒビキの身体が“ぱあっ”とまばゆい
光に包まれたかと
思うと、そこには見たこともないヒビキの姿があった。


 クリスタルが胸に輝き、そのクリスタルと同じ色の薄い青翠のレオタード風の衣装。肩と肘、手の甲、膝には防御用と見られる
装備がある。胸の
クリスタルから背中にやはり薄い青翠のマントが広がる。短髪だった髪はやはりクリスタルと同じ色になり、両耳の位置からヘ
ッドホン状の装置が
カチューシャのようについている。目の色もやはりクリスタルと同じ色であった。
 守とさきは、その光景を夢を見ているような感覚で眺めていた。サエは相変わらずヒビキの横でニコニコしている。
「これがあたしの本当の姿さ。と言っても任務時・戦闘時だけだけどね」
「………」
 守とさきは相変わらず声も出ない。


「“ガァーディアンハ−ツ”ってのは、さっきも言ったように宇宙の警察なんだ。いわゆる正義の味方だね。この銀河系の中心近
くに“光の国”って星
域があってそこに本部がある。あたしは今から30年程前にこの地球に派遣されて来たのサ。ま…いわば村の駐在さんだね。
 テレビで『ウル〇ラマン』ってやってるだろ、あれは誰かがあたしが仕事をしてるのを見て考えついたんじゃないのかナ?」
「…って事は、母さんは…宇宙人?…」
「ま、ひらたくいやぁそうなるサ。でも変身以外は地球人とな〜んにも変わんないんだよ。だから父さんと一緒になれたのサ」
 そう言うとヒビキは変身を解いた。
「地球は銀河系の中でも辺境に位置している、でもはるか太古より宇宙から色々な来訪者がきているし、その末裔も多く住ん
でいる。妖怪やモン
スターなんて言われているのも約4分の1はそうなのサ」
「座敷童子もそう言われているの。もっとも知っているのは『神級』と『S級』の者だけだけどね」
とサエが補足した。


「あたしが地球に来て5年目にサエちゃんの故郷に事件が起きた。ガァーツ本部の追跡を振り切った犯罪者が、人間の意識に
潜り込んで座敷童
子の里を襲ったのさ。確か“バァーン”って名の『思念体宇宙人』だったっけ」
「座敷童子の妖力を欲しがったのね。人間を幸せにする妖力は裏返せば“負の力”の源になるの。さきちゃんあなたにも経験あ
るでしょ?」
「? ……あっ!」
「そう、A級座敷童子がここに来た時の事よ」


 守とさきは思い出した。
 あれは守とさきが結ばれて2ヶ月ぐらい経った頃だった。家に「A級」の座敷童子が来たのだ。A級座敷童子は守の家を幸せ
に出来ないさきの代
わりと後始末に自分がここに棲み憑くと言ったのだ。守との生活を奪われると嫉妬したさきは、そのA級座敷童子を守と共に無
理やり乱暴し、事も
あろうに宅配便ででたらめな住所に送ってしまったのである。


「あの時の嫉妬心が“負の力”となってあんな事をさせたの。普段は妖力の出ないあなたは、自分や自分の大切な者に危険が
迫った時のみ妖力
が出る『eB級』ですから。あの時はあまりにも力が強く出て守さんにも影響を与えたようですね」
 確かにあの事件の後、守とさきは行った行為に反省し、さきは二度とあのような力を出せなかった。
 さきは過去に犯してしまった辛い罪を思い出し、震えていた。守はさきを落ち着かせるように、さきの手をぎゅっと握ると、さき
も救いを求めるように
握り返してきた。
「あのA級座敷童子の娘… 『もみじ』ちゃんはね、送られた先で純粋な心の持ち主の人間と出会い、今は幸せな暮らしをして
いるわ。だからもう心
配しなくても大丈夫」
「ま、あたしの知り合いの娘にも二人を助けて見守るように頼んどいたサ」
「でも、二度とあのような事が無いよう、わたくしが.『思念』を通してあなたの力を封じたの」
「守の“光の力”も弱かったしね」
「?」
「そう、“光の力”。さっきのあたしの変身も“光の力”のおかげなんだ。いわば正義の、“善”の力だね。ガァーツと地球人のハー
フのあんたは、成
人して訓練しないとその力を発動できないんだ。ただ、ごく微少な力は出てたけどね。だからさきちゃんを感じ、見る事が出来た
んだ。あんたは霊
感だと思ってたみたいだけど」
「………」


「さて、話を戻すよ」
 ヒビキは話を続けた。
「あたしが駆けつけた時には族長とほとんどのS級童子も倒されていた。座敷童子の里を襲った人間は、支配されてたとはいえ
“負の力”がとても
強かった。そこであたしと、只一人残ったS級童子で族長の一人娘だったサエちゃんと協力し、なんとか人間から“負の力”を取
り除き里を救う事が
できたのサ。
 でもあたしも怪我を負い、倒れたところを助けてくれた人がいた。それがあんたの父さんサ」
 守の父は教師であった。ライフワークとして妖怪や民間伝承などの研究をしていたが、守が高校2年の時、調査に出かけた森
で事故に遭い亡く
なっていた。
「座敷童子の里の言い伝えを近くの人里で聞いた父さんは、山中を探しているうちあたしを見つけて手当てしてくれたんだ。妖
怪とか信じてるような
純粋な心の人だったから、あたしが宇宙人でも全然気にとめなかったみたいだね。“ガァーツ”の姿と“光の力”を見ても平気だ
ったし、逆に『妖怪=
宇宙人の末裔』って事に興味を持ってくれて、それから色々とあたしを助けてくれたのサ。
 そしてあたしの“光の力”の影響で父さんもサエちゃん達を感じることが出来るようになったし、『思念』も使える事ができた。
 出会って3年してあたしと父さんは結婚し、その2年後にあんたが産まれた。あんたは父さんの“地球人の純粋な心”と、あた
しの“光の国の光の
力”を持って産まれたんだよ」
 ヒビキはそこまで話すと自分でお茶を入れて一口飲んだ。


 守はヒビキの話を聞くと何となく納得できた。確かに力を感じていたがそれは霊感だと思っていた。その力で座敷童子だった
さきを感じていたよう
に、他人には感じる事が出来ない物も感じる事が出来たし、それを恐いとは思えなかった。逆に親近感さえ沸いていた。不幸
だったとしても前向き
に考えられたし、それは慣れと思っていたし、別に辛くはなかった。


「“純粋な心”と“光の力”の影響だろうね、“純粋な光の心”を持った子だったよ。そこで、妖力をうまくコントロールできなかった
さきちゃんを、“純粋
な光の心”の影響で立派な座敷童子になるようサエちゃんと相談してあんたの側に置いたのサ。まさかくっつくとは思わなかっ
たけどね。ま、蛙の
子は蛙って事サ」
「ヒビキちゃん、わたくしは期待してましたよ。くっつけばいいかなって。ウフフフフフ」
「サエちゃ〜ん、そういう事は早く言ってよ…。アハハハハハ」
 ヒビキとサエはそう言うと顔を見合わせて笑った。


「そうだったんかぁ… ウチがココに来たんも… 守はんに見られたんも……」
 そう言うとさきは
「ふうっ」
とため息をついた。
「でも…なんでデカくなったんやろ?」
「それはわたくしが説明いたします」
 二人に今度はサエが話し始める。
「普通、座敷童子は人間からはほとんど影響は受けません。でも守さんは“光の心”を持っています。それはさきに、いえ座敷童
子に影響を与えら
れる事のできる力なのです。
 最初は守さんから溢れる“純粋な光の心”のパワーだけを感じ取って成長してくれれば良い、と考えていました。しかしさきは
守さんと関係を持っ
てしまいました。普通、座敷童子は人間と関係を持つと、妖力を失う…つまり人間になってしまうのです。それは2〜3ヶ月位か
けて徐々に失って
ゆきます。座敷童子が妖力を完全に失うまでの間、自分自身では意識してなくても、妖力を失いたくないという
本能的要因から、残されている妖力を“負の力”に転換してしまう事があります。それは無くなる直前に一番強く現われます。し
かも妖力とは測定
できません。ですから、もみじちゃんが持ってきた『座敷メーター』では、さきから妖力が計測できなかったのです」


 守はサエの話を聞いて思った。
 『そうなのか、それであの頃のさきは、A級座敷童子の時のように、人が変ったみたいになってたんだな』
「でも守さんと関係を持った事により、妖力を失った代わりに、直接“純粋な光の心”のパワーを吸収出来るようになったので
す。さきはその心に“純
粋な光の心”のパワーを貯めてゆきました。」
 ヒビキが続く。
「守、最初はあんたもその“負の力”に影響を受けたんだ。前にも言ったようにハーフのあんたは、成人して訓練しないとその力
を発動できないん
だ。
 ところが無意識に力の無くなったさきちゃんを感じ取ったあんたは、さきちゃんを護りたいという“光の心”が“負の力”に負けま
いとして急激に強く
なってゆき、20歳になったその時、訓練無しに一気に発動された。そしてさきちゃんを成長させたのサ」


「そうかぁ」
「そうなんかぁ」
 守とさきは声を揃えて返事をした。ヒビキとサエはそれを聞くと二人してニッコリ笑った。
「もうあんた達は一心同体だよ!」
「その通りですよ」
 ヒビキとサエの言葉に、守とさきは互いに顔を見合わせ真っ赤になった。





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